これは、実株同等型のトークン化米国株を、参加許可制のTSV上のAMMで試す、5年間の条件付き実験です。米証券取引委員会(SEC)が2026年9月17日に発効させたもので、全面解禁ではありません。従来株と同等の権利を持つトークンだけを、条件を満たす許可制の取引会場(TSV)が、AMM(自動価格形成の仕組み)で売買できるようにする小規模な制度実験です。個人投資家は、サービス名より先に、配当・議決権などの権利と、誰が原株を保管して正式な所有記録へつなぐのかを確認する必要があります。
各TSVは営業開始の少なくとも30暦日前に公開通知を出します。発効したのは取引所・ディーラー定義に関する条件付き免除であり、実取引や個人向けサービスの開始そのものではありません。運営者、対象商品、銘柄数、出来高にも条件があります。根拠はSEC原命令(Release No. 34-106402)です。
Innovation Exemptionとは何か
最低限覚える語は三つです。NMS stockは米国の全国市場制度の対象となる上場株式など、TSVは今回の条件付き免除を使う取引会場、AMMは注文板ではなく資産プールと計算式で価格を出す仕組みを指します。以下の制度説明は、この三つの関係を中心に読めば足ります。その他の専門語は必要な箇所で補足し、本文の理解に直接関わらない制度用語は注記程度にとどめます。
免除の対象は二つです。第一に、条件を満たすTSVを米証券取引法上の「取引所」の定義から外します。第二に、そのTSVのAMMへ資産を供給する一定の流動性提供者を「ディーラー」の定義から外します。どちらも事業者の活動全般を無規制にする措置ではなく、原命令が定めた取引と条件に限った救済です。反詐欺・反相場操縦規制は引き続き適用されます。
対象となるNMS stockは、米国の全国市場制度の対象となる上場株式などを指します。全国市場制度を定めるRegulation NMSは、取引所間で価格情報を連携し、より有利な気配を保護するための規則群です。従来の制度は複数市場の注文板を前提にしており、別の計算方式で値段を出すAMMとは噛み合わせにくい面がありました。今回の免除は、その衝突を限定条件の下で緩め、データを集める枠組みです。
技術面では、スマートコントラクトが公開され、監査可能であり、誰でも台帳を検証できる公開・許可不要型の分散型台帳に配置されることが条件です。一方、売買への入口は許可制です。ここで区別すべきなのは、台帳へアクセスできる人と、証券を取引できる人です。チェーン上の記録を閲覧できても、その人がTSVで注文できるとは限りません。
TSVの運営者はU.S. person(米国人・米国法人等)であり、米財務省外国資産管理局(OFAC)の制裁規制を順守する必要があります。これは参加者全員をU.S. personに限る規定ではありません。参加者は各TSVが定める許可制アクセス基準に従います。日本居住者が利用できるかは、個別TSVの基準、提供地域、本人確認、契約条件、日本を含む適用法によって決まり、SECの免除だけでは結論が出ません。運営者要件と利用者要件を混同しないことが重要です。この区別を誤ると、「運営者が米国拠点だから自分も参加できる」といった誤解につながるため、ニュースやサービス説明を読む際は主語(運営者か利用者か)を必ず確認してください。制度条件の全体像はSEC公式発表でも確認できます。
免除期間は2026年9月17日から2031年9月17日までです。恒久的な規則改正ではなく、SECは公益や投資家保護の観点から期間や条件を変更し得ます。事業者にとっては実装可能性を試す期間、規制当局にとっては恒久ルールを検討するためのデータ収集期間という位置付けです。
確定したこと、事業者次第のこと、未解決のこと
| 区分 | 2026年9月20日時点の内容 |
|---|---|
| 確定したこと | 公開チェーン上で実株同等型を自動価格形成により売買するため、取引所・ディーラー定義の条件付き免除が5年間発効した。反詐欺・反相場操縦規制と原株停止への連動は残る |
| 事業者次第のこと | 営業開始、取引時間、手数料、対応銘柄、ウォレット仕様、決済速度、参加可能な地域 |
| 未解決のこと | チェーン記録と保管・株主名簿の安定した接続、十分な流動性、恒久制度への移行、日本居住者向け提供と日本法・税務上の扱い |
この表が示す利用者への含意は一つです。取引画面がブロックチェーン上のプールに変わっても、詐欺・相場操縦の禁止や情報開示、取引停止といった証券としての規律は消えず、SECの免除自体は個別商品の安全性や収益を保証しません。日本居住者の利用可否を含め、具体的な便益や条件は各TSVの実装と契約文書を見なければ判断できません(詳しくはFAQを参照)。取引履歴やプール残高を台帳上で検証できる点は新しい特徴ですが、それはあくまで表示・検証の仕組みであり、権利や保護の水準そのものを変えるものではありません。
「トークン化株式」を権利で見分ける
同じA社株の価格を表示する商品でも、法律上の中身は異なり得ます。名称やティッカーより先に、配当、議決権、清算時の残余財産、原株の保管、誰に請求できるかを見ます。今回の対象となるTokenized NMS Stockには、同じクラスの従来株と同等の持分、配当、議決権、清算時の権利などが求められます。
従来株・実株同等型・価格連動型の違い
| 確認点 | 従来株 | 実株同等型トークン(発行体型・第三者型) | 第三者発行の価格連動型 |
|---|---|---|---|
| 基本的な権利 | 株式の配当・議決権等 | 同一クラス株と同等の配当・議決権等 | 発行者への債権や差額精算である場合があり、原株の権利とは限らない |
| 発行・記録主体 | 発行会社と名義書換機関 | 発行会社・代理人、または条件を満たす第三者 | 原株の発行会社と無関係な第三者の場合がある |
| 原株の保管 | 証券保管・決済制度で管理 | 設計に応じて保管・記録方法を開示し、権利との対応が必要 | 裏付け保管の有無を含め商品ごとに異なる |
| 主な相手方リスク | 証券会社・保管機関等の実務リスク | 運営、保管、コントラクト、名義接続のリスク | 第三者発行者の信用・倒産リスクが中心になり得る |
| 今回の免除 | 通常の市場制度で取引 | 条件を満たせばTSVの対象 | 価格連動だけでは対象にならない |
SECスタッフは、トークン化証券を発行体またはその代理人が作る型と、発行体と無関係な第三者が作る型に整理しています。この職員声明は規則そのものではありませんが、経済的実態を確認する手掛かりになります。原株の所有権を与えない商品は、債務証券やsecurity-based swap(証券の値動きを参照するデリバティブ)など、別の法的構造になり得ます。
第三者型は権利の中身で見分ける
「第三者型」は一種類ではありません。第三者が発行しても、従来株と同等の配当・議決権等を備える実株同等型なら枠組みに入り得ます。一方、第三者への債権や価格差の精算にとどまる価格連動型は、同等の株主権がないため、この免除の対象にはなりません。両者は名称やティッカーだけでは区別できず、商品説明のどこに権利の根拠が書かれているかを見る必要があります(発行体への通知・拒否権の詳細は後述の「発行体の通知・拒否権」を参照)。自分のウォレットでトークンを管理できても、裏側の株式まで自己保管しているとは限らない点は、保管・倒産隔離の節で確認します。
制度が想定するTSV・AMMの基本フロー
従来の注文板は、買い注文と売り注文を価格・時間などの優先順位で突き合わせます。AMMは、スマートコントラクト内に用意された二種類以上の資産のプールと計算式を使い、注文のたびに交換価格を求めます。TSVは、この方式を実株同等型トークンへ適用する取引会場です。
参加確認から停止時対応までの取引フロー
- 参加資格の確認:利用者はTSVの許可制アクセス基準に従い、本人確認などを受けます。公開チェーンを閲覧できるだけでは注文資格になりません。
- プールの準備:流動性提供者が、トークン化株式と交換に使う資産をスマートコントラクトへ供給します。どの決済資産を用いるか、資産比率や手数料をどう設定するかという個別仕様は、原命令だけでは一律に決まりません。
- 価格提示:利用者が購入数量を入力すると、AMMはプール残高と計算式から見積価格、手数料、予想スリッページを示します。利用者は許容条件を確認して注文を送ります。
- 約定と台帳記録:条件を満たせばスマートコントラクトが交換を実行し、トークンと対価の移転をチェーンへ記録します。価格、数量、時刻、プールアドレスなどは制度上の公開データにもつながり、後から誰でも検証できます。
- 株式の権利・決済記録との接続:オンチェーンの移転を配当、議決権、株主名簿、原株保管へどう結び付けるかは、発行体型か第三者型か、採用する保管・名義管理方式によって異なります。原命令は同等の権利を要求しますが、すべての業務フローを一つに固定してはいません。
- 停止時の処理:原株が取引停止になれば、対応するトークン化株も同時に止める必要があります。停止中の未処理注文、復旧後の再開、チェーン障害や誤送信の訂正手順は、各TSVの公開情報で確認すべき項目です。
この流れで重要なのは、オンチェーン約定と会社法・証券実務上の権利移転を同一視しないことです。スマートコントラクトが交換を終えても、その記録が名義書換機関や保管機関の帳簿とどう一致するかを確認できなければ、配当や議決権を誰が行使するかが曖昧になります。
AMMの価格とスリッページ
AMMでは注文板の最良売り気配を買うのではなく、プール内の資産比率が変化するように交換します。そのため、注文額が大きいほど、見積もり開始時の価格と平均約定価格の差であるスリッページが大きくなりやすい性質があります。例えば、表示価格が1株100ドルの小さなプールに対して100ドル分の買い注文を出すと、プール内の株式が減り交換レートが動くため、平均約定価格は101〜102ドル程度まで悪化することがあります。同じ100ドルの注文でも、プールの規模が10倍あれば価格への影響はおおむね小さくなり、逆にプールが小さいほど、また一度に大きな金額を注文するほど、表示価格からの乖離は広がります。プールが厚ければ同じ注文でも価格への影響は小さく、薄ければ大きくなります。
既存市場の価格と、TSVのプールが示す価格は一致するとは限りません。差が生じれば裁定取引が縮める可能性はありますが、参加者制限、出来高上限、手数料、移転速度によって裁定が十分に働かないことも考えられます。全国市場制度が前提とする最良気配保護の考え方をAMMへそのまま当てはめるのは難しく、今回の免除はその衝突を緩和しますが、利用者が常に最良価格を得られると保証するものではありません。
オンチェーン情報と制度上の開示
台帳が公開されていても、ウォレットアドレスと取引履歴だけでは市場の状態を容易に理解できません。そこでTSVには、価格、数量、時刻、プールアドレス、日末時点のプール規模、日次出来高などを米ドル建てで定期公開する条件があります。運営者や関連当事者の取引、帳簿記録、技術的セーフガードも監督の材料です。これらのデータはSECが恒久ルールを検討する際の基礎資料になるほか、利用者が複数TSVを比較する際の材料にもなります。開示条件はUyeda委員の声明にも整理されています。
コードの公開・監査可能性、市場データの公開、第三者監査を実施した場合の内容開示は、それぞれ別の役割を持ちます。原命令が一律に求めるのは、スマートコントラクトが公開され監査可能であることです。独立した第三者監査そのものが全TSVの必須条件という意味ではありません。実施された監査は既知の欠陥を点検する材料、市場データは価格形成と流動性を評価する材料であり、どれか一つだけで安全性や透明性が保証されるわけではありません。利用者から見れば、監査報告書が存在するか、いつ実施されたか、指摘事項がどう修正されたかを確認できるかどうかが、実務上の判断材料になります。
実験を限定するガードレール

SEC原命令は、対象銘柄と出来高を制限しています。価格変動抑制制度でいうTier 1では各TSVが最大75銘柄、前月平均日次出来高の0.25%まで、Tier 2では最大250銘柄、2.5%までです。Tier 1とTier 2はLULD Plan(急激な価格変動を抑える制度)上の区分であり、単純に「人気銘柄」と「それ以外」を意味する呼称ではありません。制度上取り扱えることと、十分な流動性で実際に売買できることは分けて考える必要があります。
銘柄数・出来高の上限は既存市場への影響を抑える一方、プールが薄くなる要因にもなります。対応銘柄に選ばれ、発行体が拒否せず、流動性提供者が資産を供給し、利用者がアクセス基準を満たして初めて取引が成り立ちます。免除の発効だけから、あらゆる米国株が取引可能になるとはいえません。上限は今後、SECが公開コメントとデータを踏まえて見直す可能性がある数値であり、固定的な仕様として理解しない方が実態に近いといえます。
発行体の通知・拒否権
SEC原命令が定める第三者による実株同等型の事前通知と拒否権は、発行体を取引設計から完全に切り離さないための歯止めです。原命令が具体的に挙げる論点は、オンチェーン移転に伴う株主名簿管理、トークンと原株の価格乖離、原株価格への悪影響です。発行体が異議を示した銘柄をTSVが扱うことはできません。
取引停止と残る規制
重要情報の公表や市場異常などで原株が停止すれば、対応するトークン化株も同時に停止します。ブロックチェーンが技術的に動いていても、TSVだけが売買を続ける設計ではありません。また、免除されるのは特定条件下の取引所・ディーラー定義であり、反詐欺・反相場操縦規制は残ります。一般的なDeFiプロトコル全体を承認する命令でもありません。
取引・決済保管・所有記録を分けて見る
株式の売買は、注文を成立させるだけでは完結しません。代金と証券を確定的に受け渡し、誰が株主かを記録し、配当や議決権を届ける必要があります。関連する取り組みは次のように役割と現在地が異なります。
| 層・取り組み | 主な役割 | 2026年9月20日時点の状態 | TSVとの関係 |
|---|---|---|---|
| 取引:TSV | AMMで実株同等型トークンを売買 | 5年間の条件付き免除が発効。個別TSVは開始前通知が必要 | Innovation Exemptionの直接対象 |
| 決済・保管:DTC/DTCC | DTC保管資産のデジタル表現、担保移動等 | 3年間の認可。2026年7月にDTC本番環境で取引イベントを実施済み。Tokenization Serviceの正式開始は2026年10月予定 | 別制度。TSVの全取引が自動的にDTCへ接続するわけではない |
| 所有記録:名義書換機関 | 株主名簿、証券の発行・移転記録 | SECが規則近代化を提案中 | トークン記録と法的な所有記録をつなぐ論点 |
| 別ルート:Nasdaq規則変更 | 既存注文板で売買し、選択時に決済段階でトークン化 | SECが2026年3月18日に承認済み。DTCの必要なインフラ・ポストトレードサービス整備後の開始待ち | AMM型TSVとは異なる市場設計 |
DTCは証券の集中保管と振替を担う機関です。DTCCは、DTC保管資産のトークン化について、Russell 1000構成銘柄、主要指数ETF、米国債などを対象に、デジタル版にも従来資産と同じ権利・保護を持たせる構想を公表しました。2026年7月にはDTC保管資産をトークン化し、実稼働取引で用いたとDTCCが発表しています。これは保管・決済側の取り組みで、TSVの免除そのものではありません。
名義書換機関(transfer agent)は、誰が証券を所有するかを記録し、発行や移転を処理する主体です。SECは約40年ぶりの包括的な規則更新を提案し、分散型台帳を含む技術変化への対応を検討しています。これは発効済みのTSV免除と違って提案段階です。ウォレット上の移転を正式な所有記録にどう反映するかは、実株同等の権利を機能させるうえで重要です。
CUSIPは米国などで証券銘柄を識別する番号です。Nasdaqの規則変更では、従来株とトークン化株に同じCUSIPを使い、同じ注文板と優先順位で取引し、参加者が選んだ場合にDTCを通じて決済段階でトークン化します。SECは2026年3月18日の承認命令(Release No. 34-105047)で規則変更を承認しました。ただし実際の開始はDTCの必要なインフラとポストトレードサービスの整備後で、Nasdaqは開始の少なくとも30暦日前にEquity Trader Alertを出します。別のプールで価格を作るTSVとは発想が異なります。
三層が別々に進むことには、既存の保管・名義管理を維持しながら取引方法だけを試す、あるいは既存注文板を維持しながら決済表現だけをデジタル化するなど、変更範囲を限定できる利点があります。一方で層の境界ではデータの不一致が起こり得ます。ある層で認可や承認が出ても、ほかの層との接続や個別サービスの開始まで自動的に確定するわけではありません。利用者にとって重要な問いは一つです。ウォレット残高、TSVの帳簿、保管機関の残高、株主名簿のうち、どの記録が正本で、食い違いが起きたときに誰が調整・訂正するのか。この問いへの答えが契約文書や公開規則に明記されているかを確認してください。
残るリスクと未解決の論点

リスクは「ブロックチェーンだから危険」または「SECの枠内だから安全」という二択では評価できません。同じTSVでも、採用チェーン、コントラクトの更新権限、流動性提供者の構成、原株の保管方法、名義記録との同期方法が違えば、故障の起点と損失負担が変わります。利用者は技術、市場、法的権利の三方向から確認する必要があります。
技術リスクと市場リスク
スマートコントラクトに欠陥があれば、価格計算、資産移転、停止処理が意図どおりに動かない可能性があります。秘密鍵の紛失や盗難、チェーン停止、フォーク、サイバー攻撃も残ります。コードが公開・監査可能であることは問題発見に役立ちますが、欠陥がないことを保証しません。監査の実施者、対象範囲、更新後の再監査、緊急停止権限を確認する必要があります。契約が更新可能な設計であれば、誰がその権限を持ち、どのような手続きで変更されるのかも点検対象です。
市場面では、既存取引所と一つまたは複数のプールに価格と流動性が分かれます。薄いプールでは少額でもスリッページが大きくなり、既存市場との価格差が長く残る可能性があります。誰が参照価格を与えるか、裁定参加者がアクセスできるか、異常な価格をどう検知するか、関連当事者の取引をどう監視するかが評価点です。出来高上限は影響を抑えるガードレールですが、流動性の厚みとの間に緊張関係があります。上限に近づいた銘柄で新規注文が制限される場合、代替の取引手段や決済のタイミングをあらかじめ想定しておく必要があります。
保管、倒産隔離、決済の最終性
第三者型では、原株を誰が保管し、トークン移転を誰が株主記録へ反映するか、裏付け株式の残高・照合頻度、利用者資産の分別、破綻時の請求順位を確認します。自分のウォレットでトークンを管理できても、裏側の株式まで自己保管しているとは限りません。発行体への直接の株主権ではなく第三者への請求権であれば、その第三者の信用悪化が商品価値へ影響し、表面上の価格が原株と一致していても倒産時の回収可能性は同じとは限りません。
チェーン上で取引が確定する時点と、保管帳簿・株主名簿上で所有権移転が確定する時点も一致するとは限りません。フォークで履歴が分岐した場合、誤送信や鍵喪失が起きた場合、どの記録を正として誰が訂正できるのかが必要です。不可逆的な決済は効率を高め得ますが、誤りの救済を難しくします。利用規約では、最終性の定義、取消条件、損失負担、問い合わせ先まで確認すべきです。特に、チェーン上は約定済みでも保管帳簿側の反映に時間差がある場合、その間に発生した配当や企業行動をどちらの記録で処理するかは、あらかじめ規約で定められているべき論点です。
配当や議決権にも時間差の問題があります。配当基準日にチェーン上の保有者と正式記録上の保有者が異なる場合、誰が受領し、どう配分するのかが必要です。株式分割、合併、公開買い付けなどの企業行動でも、トークン数量や権利内容を正確に更新しなければなりません。実株と「同等の権利」という条件は入口であると同時に、保有期間を通じて運用されるべき要件です。特に議決権については、株主総会の基準日とチェーン上の残高確定タイミングがずれると、誰が投票権を行使できるかという実務上の調整が必要になり、この点は原命令自体が細部まで定めているわけではありません。
時限措置であることのリスク
免除は2031年9月17日までの時限措置です。SECはデータやコメントを踏まえて条件を変更でき、同じ形で恒久化される保証はありません。事業者がサービスを終了した場合のトークン交換、原株への転換、資産返還の手順は長期保有者にとって重要です。期限があることは単なる注記ではなく、サービス継続性と出口設計に関わるリスクです。SECは原命令のなかで、この5年間に集めるデータをもとに恒久的なルール形成を検討するとしており、期間途中でも条件の追加や縮小が行われる可能性があります。長期保有を考える利用者は、制度そのものが変わり得る前提で、定期的にニュースやTSVの公開情報を確認する必要があります。
ニュースやサービスを確認する5項目
- 権利:確認する資料は契約書・商品説明。質問は「配当・議決権・清算時の権利と請求先が明記されているか」。不明なら実株同等型と断定せず、価格連動型として扱います。
- 主体・保管・記録:確認する資料はTSVの公開Notice・商品文書・コード資料。質問は「保管者・名義書換機関・分別管理・破綻時の請求順位が読み取れるか」。不明なら、チェーン記録と正式な所有記録の接続を未確認のまま利用を進めない扱いとします。
- 参加条件と総コスト:確認する資料は利用規約と実注文の見積もり。質問は「居住地要件を満たし、手数料・スリッページ・移転費用込みの支払総額が既存市場と比較できるか」。不明なら、表示価格だけで判断せず実際の見積もりを取り直します(日本居住者の利用可否はFAQを参照)。
- 上限・停止・障害:確認する資料は公開規則。質問は「対象銘柄・出来高上限、原株停止との連動、障害時の判定者と窓口が示されているか」。不明なら、誰が損失を負うか評価できない状態として利用開始を見送ります。
- 制度の現在地と出口:確認する資料は各制度の進捗(発効済み・承認済み・提案中の別)。質問は「サービス終了時に原株転換・償還・移管のどれが使え、処理期間や費用が示されているか」。不明なら、2031年9月17日の期限を前提に保有継続の可否を定期的に再検討します。
A社株100ドル相当を買う場合:商品説明に同一クラス株と同等の配当・議決権がなく、A社株の値動きに応じて第三者が差額を払うだけなら、今回の対象である実株同等型とは別物です。権利が同等だと確認できても、判断はそこで終わりません。100ドルという表示額ではなく、手数料・スリッページ・資産移転費用を含む支払総額を既存市場と比べ、総コストで見劣りしないかを確認します。例えば証券会社で同じ100ドル分をNMS株として買う場合の手数料・約定価格と、TSVでプールから買う場合の手数料・スリッページ込みの支払総額を並べれば、権利が同等でも入手コストが異なり得ることが具体的に見えてきます。
今後見るべき指標と結論
制度の成否を専門的に追う人向けには、次の4指標が判断材料になります。価格形成は既存市場との価格差とその継続時間、手数料込みで裁定できるかどうか。流動性はプール規模と少数の提供者への集中度、相場急変時に資産が引き揚げられないか。運用品質は原株停止からTSV停止までの時間、障害の件数・復旧時間・公表速度。記録整合性はチェーン・TSV帳簿・保管記録・株主名簿の照合頻度と不一致件数です。恒久ルール化の議論では、取引量の多さよりもこれらの指標の安定性が重視される見込みです。
個人利用者として本記事から持ち帰るべき結論は、次の4点に絞られます。サービス開始の通知が出たら、①配当・議決権・請求先を定める権利文書、②手数料・スリッページ・移転費用を含む総コスト、③チェーン記録から株主名簿・保管記録への接続の明示、④2031年9月17日の期限や中途終了時の返還方法という4点を確認してください。四つのうちどれか一つでも商品説明や利用規約から特定できない場合は、不明点を安全側に補って利用を始めるのではなく、情報が出そろうまで見送ることを基本の姿勢とするのが妥当です。四つがそろって初めて、制度上の可能性を自分が利用できる商品として評価できます。本記事は制度の解説であり、特定の金融商品やサービスへの投資を推奨するものではありません。