結論からいうと、ADAPT Act(S.5616)は米国の暗号資産税制を広く見直す法案ですが、2026年10月27日時点では成立していません。上院財政委員会に付託された段階であり、ステーブルコイン決済やガス代がすでに非課税になったわけではありません。現在の申告は、引き続き既存のIRSルールに従う必要があります。
法案には、条件を満たす米ドル・ステーブルコインの一定取引や、10ドル以下の一定のネットワーク手数料で損益を認識しない案があります。一方で、ウォッシュセール規則の拡張など、損失計上を厳格にする方向の提案も含みます。この記事では「誰の、どの取引が、いつから変わり得るのか」を順番に整理します。法案の見出しだけで先取り対応せず、現行制度と提案を切り分けられるようになることが読むメリットです。
最初に押さえる3点
- ADAPT Actは未成立で、現時点の納税義務を変更していない
- ステーブルコインの措置は法案上の資格要件を満たす資産の一定取引に限られる
- 10ドル基準は買い物の金額ではなく、一定のネットワーク手数料に関する基準である
ADAPT Act(S.5616)とは:まず押さえたい法案の現在地
ADAPT Actは「Aligning Digital Assets with Principles of Taxation Act」の略称で、米国内国歳入法の複数分野をデジタル資産に対応させることを目指す上院法案です。決済だけを扱う短い法案ではなく、売買、検証活動、貸借、寄付、投資信託、外国投資家などに関する提案をまとめています。
正式提出日は9月30日、議員発表は10月22日
議会上の正式提出日は2026年9月30日です。ダインズ上院議員事務所が法案を紹介する発表を出したのは10月22日なので、二つの日付は意味が違います。ニュースの日付を法案提出日として読むと経過を誤認します。法案原文と議会メタデータは9月30日を提出日としており、10月22日の資料は目的や主要条項を説明する広報資料です。
2026年10月27日時点では上院財政委員会への付託段階
S.5616は上院財政委員会に付託されています。委員会への付託は、法案が審議対象として担当委員会へ送られたことを意味し、上院通過、下院通過、大統領署名を意味しません。したがって「米国で新ルールが施行された」と表現するのは不正確です。
法案原文では、多くの条項について成立した場合に2026年12月31日後の取引または課税年度へ適用する設計が示されています。しかし、成立前に予定日だけが到来しても効力は生じません。審議中の修正により、対象、基準額、発効時期が変わる可能性も残ります。
共和党上院議員4人が提出した税制改正案
提出・共同提出者はスティーブ・ダインズ、シンシア・ルミス、バーニー・モレノ、ティム・スコットの共和党上院議員4人です。提出者の説明は法案の政策目的を知る手掛かりですが、法的効果の確認には法案原文を優先します。支持者の評価と、成立状況や条文の内容は分けて読みましょう。
ADAPT Actが目指す暗号資産税制の全体像
法案の方向性は二つです。日常的な少額利用の計算負担を限定的に軽くする一方、売買や運用には株式・証券で使われてきた税の原則を広げます。まず、個人投資家に関係しやすい六つの論点を比較します。
| 論点 | 現行 | 法案の変更案 | 主な対象者 | 今すること |
|---|---|---|---|---|
| ステーブルコイン決済 | 支払いも処分として損益計算が生じ得る | 適格米ドル・ステーブルコインの一定取引を非認識 | 決済利用者 | 代金と取得価額を保存 |
| ネットワーク手数料 | 支払資産の処分が論点 | 10ドル以下の一定手数料を非認識 | 送金・決済利用者 | 元本と手数料を分離 |
| ウォッシュセール | 一般暗号資産には原則未拡張 | 一定のデジタル資産へ拡張 | 売買する人 | 全口座の売買を時系列化 |
| 時価評価 | 適用範囲が限定的 | 一定のディーラー・トレーダーに選択肢 | 専門的売買業者 | 自己判断で先取りしない |
| ステーキング | 受領報酬は所得になり得る | 検証活動の所得認識時期を整理 | 検証参加者 | 受領・処分時点を保存 |
| 貸借 | 契約構造ごとの判断 | 一定の貸借移転に非認識の枠組み | 貸し手・借り手 | 契約と返還条件を保存 |
少額利用の損益計算負担を軽減する措置
対象として示されるのは、適格米ドル・ステーブルコインの一定の売却・交換・処分と、10ドル以下の一定のデジタル資産ネットワーク手数料です。いずれも損益を認識しない仕組みが提案されていますが、資産や取引の条件が異なります。「少額暗号資産決済は全部非課税」という一つの制度にまとめてはいけません。
売買・貸借・検証活動を既存の税体系に位置づける措置
一定のデジタル資産にウォッシュセール規則やみなし売却規則を広げる案、ディーラー・トレーダーが時価評価課税を選択できる案も含まれます。貸借、ステーキングなどの検証活動、寄付、投資信託も個別に扱われます。負担軽減と同時に、租税回避を防ぐ規則や金融商品に近い整理も進めようとしているのが全体像です。
成立後も財務省・IRSのルール整備が必要
法律の条文だけでは、実務で必要なすべての境界が決まらない場合があります。対象資産の判定、記録の残し方、報告書式、実質的に同一の資産の範囲などは、財務省やIRSによる規則・ガイダンスが重要です。成立の有無に加え、後続文書まで確認して初めて実務へ落とし込めます。
ステーブルコイン決済の損益非認識は誰に適用されるのか

まなぶ「クリプ先生、ステーブルコインで払えば、もう税金の計算をしなくていいんですか?」
クリプ「まだ法案の段階だよ。成立しても、法案の定義を満たす米ドル・ステーブルコインの一定取引だけが対象なんだ。」
ここでいう「損益非認識」とは、対象となる処分で生じた利益または損失を、その取引時点の税計算へ認識しない扱いです。「取引履歴を残さなくてよい」「すべての税から永久に免除される」という意味ではありません。対象資産と取引類型を条文に沿って確認する必要があります。
対象は「適格米ドル・ステーブルコイン」の一定取引
法案は、定義を満たす適格米ドル・ステーブルコインについて、一定の売却・交換・処分で損益を認識しない仕組みを提案しています。名称に「USD」が付くことや、市場価格が1ドル付近であることだけで自動的に適格になるとは限りません。発行・償還の仕組み、準拠する制度、条文上の要件を確認する必要があります。
また、損益非認識と「課税対象外」という日常語は同じとは限りません。税法上は取得価額や後の取引との関係が問題になる場合があるため、成立後には具体的な計算方法と記録要件を確認します。法案段階で個別銘柄が必ず対象になると断定するのは早計です。
暗号資産全般やすべての決済が対象ではない
ビットコイン、イーサリアム、円連動型資産、アルゴリズム型トークンなどを一律に含める提案ではありません。ステーブルコインであっても資格要件を満たさないものや、対象外の取引類型は措置を使えない可能性があります。資産の呼び名ではなく法的定義で判断することが重要です。
ステーブルコインそのものの仕組みを先に確認したい場合は、ステーブルコインの基礎解説も参考になります。ただし、価格安定を目指す仕組みとADAPT Act上の適格性は別の論点です。
現行制度では支払いも処分として損益計算が必要になり得る
IRSの現行案内では、デジタル資産を商品やサービスの支払いに使う行為も、処分として利益または損失の計算が必要になり得ます。ステーブルコインを含むデジタル資産取引の所得も申告対象になり得ます。ADAPT Actが未成立である以上、この現行の考え方を無視してよいわけではありません。
10ドル以下のネットワーク手数料はどう扱われるのか
まなぶ「10ドル以下の買い物なら対象、という意味ですか?」
クリプ「買い物の金額ではないよ。基準がかかるのは、条件を満たすネットワーク手数料の金額なんだ。」
暗号資産を送るとき、利用者はネットワーク処理の対価としてデジタル資産を支払うことがあります。一般にガス代とも呼ばれますが、法案で対象になるかは名称だけでなく、その支払いが条文上のネットワーク手数料に当たるかで判断します。
10ドル基準は決済額ではなく手数料の金額
法案が示す10ドル以下という基準は、商品購入額や送金元本の上限ではありません。一定のデジタル資産ネットワーク手数料について、その支払いに伴う損益を認識しない案です。たとえば高額な資産移転に10ドル以下の対象手数料を支払った場面でも、検討対象は元本ではなく手数料部分です。
反対に、10ドル以下の商品を暗号資産で買ったから自動的に非認識になる、という読み方もできません。ステーブルコイン取引の規定とネットワーク手数料の規定は分けて確認します。
対象となるネットワーク手数料の範囲
ブロックチェーン利用時には、ネットワーク手数料のほか、取引所の出金手数料、サービス利用料、スプレッドなどが表示される場合があります。これらがすべて同じ税務上のネットワーク手数料になるとは限りません。誰に何の対価として支払ったか、取引明細とオンチェーン記録を分けて残すことが大切です。
ガス代の技術的な仕組みはイーサリアムのガス代の解説で確認できます。ただし、技術上ガスと呼ばれる支払いが法案上必ず対象になるとは限らず、成立後の定義とガイダンスが優先されます。
ブローカーの報告簡素化と損益非認識は別制度
ブローカーが個々の取引をどの形式でIRSへ報告するかという制度と、納税者が損益を認識するかという実体的な税ルールは別です。報告が省略または集約されても、納税者の計算義務まで消えるとは限りません。現行のブローカー報告で少額措置があることを、課税免除と読み替えないでください。
暗号資産売買はどう変わる?ウォッシュセールと時価評価

ADAPT Actは日常利用の負担軽減だけでなく、一定のデジタル資産の売買に既存の金融税制を広げる提案も含みます。特に、損失を出した直後に同じ経済的ポジションへ戻る取引や、含み益を伴う国外移転などが論点です。
ウォッシュセール拡張で損失計上時期が変わる可能性
ウォッシュセール規則は、損失を実現した前後に実質的に同一の資産を取得する一定の取引で、損失控除をその時点で認めない仕組みです。法案は、この規則を一定のデジタル資産へ広げる案を含みます。経済的な保有をほぼ続けたまま、税務上の損失だけを作る取引を制限する方向です。
損失が完全に消滅するとは限らず、取得価額への調整などを通じて認識時期が後ろへ移る場合があります。ただし具体的な適用は取引関係と条文によります。「売ってすぐ買い戻しても必ず当年損失にできる」という前提は、成立すれば見直しが必要です。
みなし売却規則の対象拡張
みなし売却規則は、値上がりしたポジションを形式上は保有しながら、反対取引などで経済的な値動きを固定する場面を売却とみなす仕組みです。法案は一定のデジタル資産を対象へ加える提案を含みます。単純な現物売却だけでなく、デリバティブやヘッジを組み合わせる利用者に関係し得ます。
ディーラー・トレーダー向け時価評価課税の選択肢
法案には、暗号資産のディーラーやトレーダーが一定の時価評価課税を選択できるようにする案があります。期末に資産を時価で売却・再取得したものとして損益を計算する考え方で、一般の長期保有者が自動的に全員この方式へ移るという内容ではありません。資格、選択手続、対象資産を分けて確認する必要があります。
複数ウォレットや実質同一資産の追跡が実務課題
同じ銘柄を複数の取引所、自己管理ウォレット、DeFiで扱うと、売却と再取得を横断して追う必要が生じます。ラップ資産やブリッジ後の資産が「実質的に同一」と扱われる範囲も重要です。法案だけから一律の答えを作らず、取引日時、数量、資産識別子、ウォレット、取引相手、手数料を保存しておくと後の判定に対応しやすくなります。
ステーキングと貸借はどう変わる?その他の変更案も整理
個人投資家に関係しやすいのは検証活動と貸借です。寄付、投資信託、免税組織、外国投資家、海外DAOにも規定がありますが、納税主体と制度目的が異なるため「その他の変更案」として分けて見ます。
ステーキング:現行の所得計上から検証活動の認識時期を整理
現行では、IRS資料上、ステーキング報酬を含むデジタル資産所得は申告対象になり得ます。法案案は、検証活動に伴う報酬の所得認識時期を、受領と後の処分の関係から整理する規定を設けます。主な対象は、自ら検証する人やサービスを介して報酬を受け取る人です。
ただし「ステーキング」という表示だけで同じ扱いにはなりません。資産をいつ支配できたか、報酬をいつ受け取り、いつ処分したかを保存してください。仕組みの基礎はステーキング報酬の解説で確認できます。成立後も対象となる検証活動と計算方法は最終条文・ガイダンスの確認が必要です。
貸借:一定の移転を直ちに課税しない枠組み
現行では、暗号資産を貸借サービスへ移す取引は、所有権、返還資産、報酬など契約構造を見て判断します。法案案は、条件を満たす貸借について移転時に直ちに損益を認識しない枠組みを提案します。対象は貸し手・借り手ですが、利回り商品がすべて該当するわけではありません。契約書、同種資産の返還条件、期間、報酬、担保を残すのが実務対応です。
寄付・投資信託・免税組織などは専門論点
現行の暗号資産寄付は非現金寄付として扱われ、一定額を超えると原則として適格鑑定が問題になります。法案は評価・鑑定要件の変更を提案します。また、規制投資会社の検証活動、免税組織の一定の検証所得、外国投資家の取引セーフハーバー、海外DAO再編も扱います。これらは個人の通常売買と同じルールではないため、該当する場合だけ原文と専門家の助言を確認する論点です。
下院H.R.10357との共通点・相違点と成立までの道筋
まなぶ「下院の委員会でも進んだなら、もう成立に近いんですか?」
クリプ「前進ではあるけれど、両院案は別の法案だよ。本会議と条文調整、その後の手続が残っているんだ。」
下院にはDigital Asset Tax Certainty Act(H.R.10357)という別の法案があります。内容が重なるため一緒に語られますが、S.5616と同じ法案番号でも同一手続でもありません。どちらか一方の委員会が前へ進めば、もう一方も自動的に成立するわけではありません。
H.R.10357は下院歳入委員会を38対5で通過
H.R.10357は2026年9月16日、下院歳入委員会で賛成38、反対5により承認され、本会議への報告が決まりました。これは委員会段階での進展ですが、下院本会議を通過したことや法律になったことを意味しません。議会記録と委員会資料は、この区別を確認する一次情報です。
少額取引・売買・検証活動で重なる両院案
両院案には、少額利用の負担、ウォッシュセールなど売買時の規則、時価評価、検証活動といった分野で重なる提案があります。背景には、資産を支払いに使うたびに損益計算が生じ得る問題と、経済的に金融商品へ近い取引にどの既存原則を当てはめるかという問題があります。
貸借・海外DAO再編・免税組織など上院案固有の論点
調査資料による比較では、上院案は貸借、海外DAO再編、免税組織の受動的な検証所得など、下院案より踏み込む論点を含みます。似た見出しだけを見て「両院が同じ条文に合意した」と判断してはいけません。最終的にどの文言が残るかは調整次第です。
成立には本会議通過と両院の条文調整が必要
米国で法案が成立するには、原則として上下両院が同一内容を可決し、大統領の署名など所定の手続を経る必要があります。両院が異なる条文を可決した場合は、同じ内容へそろえる工程が必要です。委員会通過、院の本会議通過、成立、施行は別々の段階なので、ニュースを読む際は動詞に注目しましょう。
現時点でやること:申告と記録を一つの手順にする
個人投資家が今やることは、新制度の先取りではなく、現行ルールで申告できる台帳を作ることです。米国の暗号資産確定申告の流れは暗号資産の確定申告ガイドも参照してください。取引所から書類が届かなくても申告義務が消えるとは限りません。
数値例:決済と手数料を分けて現行・法案案を比べる
仮に、取得価額99ドルのステーブルコイン100単位を、時価100ドルの商品代金として支払い、別に取得価額1.50ドル・支払時価2ドルの暗号資産をネットワーク手数料に使ったとします。これは仕組みを示す単純化した例で、個別の税額計算ではありません。
- 商品代金:現行では100ドル相当の処分と99ドルの取得価額との差1ドルが損益計算の対象になり得ます。法案成立後は、その資産と取引が「適格米ドル・ステーブルコイン」の要件を満たせば、この部分が非認識の候補です。
- ネットワーク手数料:現行では2ドル相当の資産を使った処分と取得価額1.50ドルとの差0.50ドルが論点になり得ます。法案案では、条文上のネットワーク手数料に当たり10ドル以下なら、この部分が非認識の候補です。
- 未確定の点:取得価額を後の取引へどう引き継ぐか、特定の銘柄・手数料が定義を満たすか、必要な証憑は最終条文とガイダンスで確認します。
台帳は代金と手数料を別行にし、日時・タイムゾーン、資産名、数量、取引時価、取得価額、ウォレット、取引ハッシュ、価格情報源を保存します。交換、報酬、寄付も別の取引類型にします。複数ウォレットでは内部送金を売買と区別し、資産別に日時順の通し台帳を作ると、将来ウォッシュセールの範囲が確定したときも照合できます。
現在の実務チェックリスト
- 現行IRSルールで売却・交換・支払い・報酬を分類する
- 商品代金、ネットワーク手数料、取引所手数料を分ける
- 全取引所・ウォレットの日時、数量、取得価額を通算できるようにする
- ステーキングは受領・支配・処分の各時点、貸借は契約と返還条件を残す
- 成立した場合だけ、最終条文の発効日と定義に沿って再判定する
日本居住者と専門家相談
ADAPT Actは米国連邦税の改正案で、日本居住者の日本税務を直接変えません。米国取引所や米ドル連動資産を使うだけで日本の扱いが置き換わるわけでもありません。米国納税者資格、複数国の居住歴、法人・個人ウォレットの併用、複雑な貸借、多額の寄付がある場合は、ウォレット一覧、CSV、契約、報酬明細、過去申告をそろえて専門家へ相談します。
よくある誤解5つと今後の確認先
- 議員発表=施行:10月22日は政策発表日で、正式提出日は9月30日です。最新アクションは議会一次情報で確認します。
- ステーブルコインなら全部対象:法案上の資格要件と取引類型を満たす必要があります。
- 10ドル以下の買い物が対象:基準は一定のネットワーク手数料にかかります。
- 報告簡素化=非課税:ブローカー報告と納税者の損益認識は別制度です。
- 下院案の委員会通過=上院案成立:H.R.10357とS.5616は別法案で、両院の本会議通過と同一条文への調整などが残ります。
更新は、①S.5616の最新アクション、②委員会・本会議の採決、③上下両院の最終文言、④成立法の署名日と条項別発効日、⑤財務省・IRSの規則・告示・FAQ・様式説明、の順に追います。議員発表は「政策説明」、GovInfoの法案本文は「法案原文」、IRS資料は「現行実務」と役割を分けてください。
成立した場合も、適格資産の定義、ネットワーク手数料の範囲、実質的に同一の資産、選択・届出手続には未確定部分が残り得ます。ニュース見出しだけで取引履歴を捨てたり申告方法を変えたりせず、参照している条文版と公開日を確認します。
取引別の判断ガイド:どの規定を見るか
一つの操作に複数の税務上の出来事が含まれるときは、アプリの取引名ではなく、何を渡し、何を受け取り、誰へ手数料を払ったかに分解します。ウォレットに「送金」とだけ表示されていても、商品購入、自己ウォレット間移動、交換、貸付、担保差し入れでは検討する規定が異なります。次の順番で整理すると、ADAPT Actのどの変更案が関係するかを絞れます。
支払い・送金をした場合
最初に商品・サービスへの対価か、自己管理ウォレット間の移動かを分けます。対価なら、支払資産の種類、数量、取得価額、支払時価を確認します。適格米ドル・ステーブルコインの候補であれば決済の非認識規定を検討し、それ以外の暗号資産なら同規定を前提にしません。次に、元本とは別に支払ったネットワーク手数料の資産、数量、支払時のドル価額を確認します。10ドル以下かどうかはこの手数料部分だけで判定する設計です。
取引所の出金手数料やサービス料が同時に差し引かれた場合は、オンチェーンで検証者へ支払われた額と、事業者が徴収した額を分けます。画面上の総額だけを保存すると、法案上のネットワーク手数料を後から特定できません。領収書、注文履歴、取引所明細、トランザクションハッシュを組み合わせて残します。
売却・買い戻しをした場合
損失が出た取引では、同じ口座だけでなく、売却前後に他の取引所やウォレットで取得した記録も並べます。法案案のウォッシュセール拡張では「実質的に同一」の範囲が重要になるため、同一銘柄だけでなく、ラップ資産やブリッジ後の資産との関係が分かる資料も残します。規則が成立する前から一律に損失を否認する必要はありませんが、成立後の発効日をまたぐ取引は再判定できる台帳が役立ちます。
長期保有者は、ディーラー・トレーダー向けの時価評価選択と自分の通常売買を混同しないことも大切です。取引頻度が高いだけで自動的に対象となるとは限りません。事業としての活動、選択手続、対象資産などの条件を最終条文で確認します。デリバティブやヘッジで値動きを固定した場合は、単純な現物売却とは別に、みなし売却規則の対象拡張も検討します。
報酬・貸借を利用した場合
ステーキング報酬は、サービス名だけで分類せず、検証活動との関係、報酬が付与された日時、利用者が移転できる状態になった日時、売却日時を区別します。自動再投資された報酬も数量と時価を追えるようにします。貸借では、同種・同量の資産が返る契約か、期間中の所有権や議決権を誰が持つか、利息・報酬を何で受け取るかを確認します。
この整理は、法案が成立しなかった場合にも無駄になりません。現行制度で取得価額と所得を計算する基礎資料になり、成立した場合には対象取引だけを抽出できます。反対に、法案名を理由に取引履歴をまとめて削除すると、現行申告にも将来の再判定にも対応できなくなります。
まとめ:成立状況と対象条件を分けて確認する
ADAPT Actは、適格米ドル・ステーブルコインの一定取引と10ドル以下の一定のネットワーク手数料に損益非認識を提案する一方、ウォッシュセール、みなし売却、時価評価、検証活動、貸借、寄付なども幅広く扱う税制改正案です。利用負担の軽減だけを切り取ると、法案の全体像を見失います。
最も重要なのは、2026年10月27日時点でS.5616が上院財政委員会への付託段階にあり、未成立だという点です。現在の取引を新制度で処理せず、既存のIRSルールに沿って申告・記録を続けてください。今後は、成立の有無、最終条文、発効日、対象資産の定義、財務省・IRSの後続ガイダンスを順に確認しましょう。この記事は一般的な情報提供であり、個別の税務・法務・投資助言ではありません。